きくらげブログ

外資系SI企業3年目のエンジニアもどきが、読書感想・社会一般・テクノロジーなど垂れ流す予定のブログ

終わらない投機マネーの問題とコミュニティ通貨の可能性

エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと」を読んで

エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと (講談社+α文庫)

貨幣経済の問題点

ミヒャエル・エンデといえば、『モモ』や『はてしない物語』など児童文学で有名な作家。そのエンデは、ファンタジーあふれる児童文学を残した一方で、「お金」の問題に非常に関心があったことでも有名でした。実際に、『モモ』は現代のお金に振り回される人々への警告という寓意も含んでいたそうです。
小学生の頃にエンデを読んだ懐かしさもあり、本を読んでみました。 この本を読んだ一言目の感想としては、20年前に書かれた本にも関わらず(つまりリーマンショックより前なのに)、「資本主義はずっと同じ問題を解決できずにいるんだなあ」という感じです。

要約

まず、この本は、NHKのドキュメンタリー番組から生まれた本です。最初にエンデのインタビューやエンデの思索の後からお金に関する問題提起をして、後半でその問題に対する追加考察、問題に対処するための試み」の紹介がされています。

①お金に関する問題

この本では、主に以下のような貨幣経済の問題が指摘されています。このあたりの問題に関心を寄せている人にとっては、特に真新しいものはないでしょう。

  • 世界のお金の流れでは、実態の経済に紐づくお金よりも、投機目的のためのお金の方が多い。そのために、貨幣の価値が必要以上に上昇し、相対的に労働して得られる賃金の価値が低下していき、必要以上に人々の生活が苦しくなる。

  • その原因は、「利子」によって「お金がお金を産む」から。なぜなら、この世にあるもので、勝手に自身の価値が増えていくものはお金しかないから。

そして、『モモ』は、この現状に振り回される人々への警告を含んでいるという話でした。

② お金に関する問題を解決するための試み

  • 価値が減価していく「自由貨幣」

これは経済学者セルビオ・ゲゼルが提唱したもので、一言でいうと価値が減価していく貨幣です。
この実例としては、スタンプ貨幣というものがあり、一定期間ごとに定額のシールを購入し、その貨幣に貼っていかないといけないというものです。最新のスタンプが貼られていない貨幣は無効であり、スタンプを貼って貨幣の有効性を保つためにはお金がかかるというものです。
この自由貨幣は、デフレの抑止と消費の活性化の効果が期待できるものの、ケインズ流動性(貨幣がいつでもモノやサービスと交換できること)という点で現実的でないと指摘しています。つまり、貨幣が通貨として使用されるのは「世界に存在する他のあらゆるものよりも価値が減少しにくい」からであり、その性質が失われたら貴金属や宝石などもっと「価値が長続きするもの」に通貨としての役割は奪われてしまうということです。この「価値が減少しにくい」ことは、貨幣が通貨であるための必須条件であると同時に、投機を呼び寄せるものであるから非常に厄介なのです。

  • 「実経済に根付く通貨」としての世界各国の地域通貨

経済圏が大きくなればなるほど投機的利益を期待できてしまい実経済に根付かないお金の動きが大きくなってしまいます。そこで、狭い経済圏のみにおいて使えて、実経済に紐付かせた通貨というものも世界中のいろいろな地域で登場しました。
特に、世界恐慌の直後などにいくつも登場したようです。これは、インターネットのオープンすぎる空間の問題から、クローズドなコミュニティが増えている昨今においても適用可能なアプローチかもしれません。

クローズドなコミュニティと通貨

この本で紹介されるような地域通貨は、紙幣ベースなので、地理的に近い人々の間でしか使えないものでした。ただし、これからは暗号通貨を地域通貨として使うことができるかもしれません。しかし、現状の暗号通貨の問題を見れば明らかなように、暗号通貨の方が法定通貨よりも投機マネーに振り回されていたりします。結局、相反しがちな下記の二つの課題を同時にクリアしないと、理想的な通貨は存在し得ないということになります。

そして、この二つの問題をクリアするためには、結局お金だけのつながりだけでなく、地理や人などのオフラインつながりが必要だと思います。つまり、地理的なつながりや、ネット上のクローズドなコミュニティなど、お金以外の部分で一定以上クローズドにつながっている人の営みがあり、その上でその空間だけで使用できる通貨が存在するという状態です。
以前、あるイベントでメルペイの代表取締役の青柳さんとお話した際に、「一つの島を借り切ってそこに独自の生活圏・経済圏を作ってみたら面白いかもしれない」という話をしました。

20世紀末には、資本主義という世界規模でのヒト・モノ・カネのつながりの上で、インターネットという世界規模での情報のつながりができてきたわけですが、21世紀はそれらの反動からヒト・モノ・カネ・情報をクローズドにしていく時代な気がします。

エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと (講談社+α文庫)

エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと (講談社+α文庫)

【イベント参加記録】日本のお金をアップデートする。#01 -お金の価値はどう変わる?-

はじめに

こちらのイベントに行ってきました。 ここ最近行った同種のイベントの中で、間違いなく一番楽しくて収穫も多いものでした。 ちょうどブログを始めようと思っていたタイミングで意図せず絶好のネタを得てしまったので、記事にしてみました。 今回は、トークセッションのまとめと記録を中心に書きます。

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登壇者

f:id:kino_pii:20180522235249p:plainTECH PLAYさんのイベントページより拝借しました。

イベントの様子

f:id:kino_pii:20180522230556j:plain@hajipionさんのツイートから拝借しました。

岡部さんの進行に合わせて、お三方が各々の持論を絡め合いつつ展開してくれました。

ざっくりまとめ

お三方とも共通認識であったのが、これから数年以内の間にお金の形は大きく変わっていき、「なめらかな社会」が来るということ。 そのために、メルペイがまず目指すのがお金の出し入れ・使用をなめらかにすること、ヘイが目指すのがユーザよりも売り手側を中心になめらかにすること、バンクが目指すのが少額の資金調達からなめらかにするということでした。 そして、その「なめらかな社会」のために以下のようなテーマが上がりました。

  • 新しい「信用」の形
  • 「既存の金融サービス」との付き合い(共存してアップデートか、破壊的創造か)
  • お金以外の新しい「価値」
  • お金と「テクノロジー

特に印象に残った話

新しい形の信用を創造して、なめらかな社会をつくる(佐藤さん、青柳さん)

  • 信用(=支払い能力の保証)は個人に対してつくべきなのにそれを保証する術がないから、現状中央銀行が日本円を通して信用を付与している(佐藤さん)
  • これからは、信用を個人の信用を根拠にして、買い物ができるような社会があるべき(佐藤さん)
  • 現状の信用の根拠は、クレカの支払い状況など限られているが、信用の根拠となりうるデータ資源はたくさんある(青柳さん)

信用を無視して、なめらかな社会をつくる(光本さん)

佐藤さん、青柳さんが「信用」をなめらかな社会のキーワードに上げるのに対して、光本さんは、その信用を無視することで、なめらかな社会を実現するとしました。 その根拠は、「100人いても、悪い奴はその中の2,3人だけ」という考え方。そして、それを体現しているのがCASHですね。CASHは、仕組み上借り逃げされかねない仕組みとなっていますが、それでもサービスとして成立しており、性善説の体現ですね。

「信用」は個人に対してつくべきにもかかわらず、現状の「信用」の仕組みではそれができない。そこで、中央銀行が発行した法定通貨の所有量が個人の「信用」の物差しとなっている。(佐藤さん)

お金はすべての人に関わるものなのに、既存の金融機関は「遠くて冷たくて固い」。その思いが企業のきっかけの一つ。(光本さん)

官公庁や大手金融機関を訪問するときに、スーツを着ていくかアロハを着ていくか

トークセッション後の懇親会で聞いた話が混じっていますが、今回のイベントの良さを表す象徴的なエピソードでした。官公庁や大手金融機関を訪問するとき、青柳さんはスーツを着て(必要なら訪問先のイメージカラーのネクタイも締めて)いき、光本さんはいつものアロハを着ていったことがあるそうです。青柳さんは、自分がスーツを着ていくくらいで話がスムーズになるなら着ていくという考え方、それに対して光本さんは新しい社会を作るからこそそのまま普段来ているアロハを着ていくそうです。どちらもそれぞれの筋を通した結果であり、今回のイベントはこのような登壇者のスタンスの違いが良い意味で出ていました。

その他トークメモ

1. 5年後のお金の形

  • 現状では、お金の出し入れの手間がその分の時間価値を超えてしまっていることが多い。それをなめらかにする(青柳さん)

  • 現状では、都内店舗の3分の2がまだ都内でキャッシュレス。そこを変えていく。(佐藤さん)

  • たかが「1,2万円で何ができる」と言われることはあるが、少額のお金でも必要としている人はたくさんいる。(光本さん)

2. お金と生活を変えるテクノロジー

  • Fintechとは、二種類に分類できて、 既存の伝統的な金融サービスをテクノロジーによってアップデートするものと、外部から新しい形のサービスを提供するものがある(佐藤さん)

  • モノに価値が付くプラットフォームがどんどん増えていく(光本さん)

  • 法律や正統なサービスに迎合しながらやっていくのは大変。現状の障壁をいかにスキップして、スタンダードを作っていくかが課題。(佐藤さん)

  • Fintechというと新しいテクノロジーがセットでイメージされるが、必ずしも最新テクノロジーは関係ないのではないか(岡部さん)

  • QRコードでの支払いみたいなものは、手間が少ない分「なめらか」だけど、実はそんなに現金と大差ない(青柳さん)

  • お金に関するサービスは、金融期間サイド発のものとテック企業サイド発のものがある。金融期間とそれを請けるSI企業がまだまだ金融に関するテクノロジーを抱えているが、そのような金融機関サイドはデザイン・UXに関する視点が足りない。(青柳さん)

3. いけている(一緒に働きたい)エンジニアとは

  • お金がなめらかになった後の社会に対するわくわくを持っている人(青柳さん)

  • 外に出ていって知見を持って帰ってきてくれる人(青柳さん)

  • プロダクトドリブンでやるからこそ、プロダクトのコアターゲットを意識して彼らのためにサービスを作れる人(=プロダクトを作るプロセスを全て踏める人)(佐藤さん)

  • 固定観念を取り外してものを考えられる人(佐藤さん)

  • 世界を変えたい人 将来のスタンダードをつくりたい人(光本さん)

Q1: 法律のグレーゾーンに対してのアプローチはどうしていくのか?

※光本さんの回答が面白かったのですが、オフレコ感あるので書きません笑

  • 政策移行として、人・会社で集まって提案していくと意外とうまくいく(青柳さん)

Q2: 「新しい信用」の下で不幸になる(その人たちにとって社会がむしろなめらかでなくなる)人たちをどうやって救うか?(ちなみにこれ私がした質問です笑)

  • 損なわれた信用をいかに修復できるか、上げるための行動をガイドする ガイドはサービスじゃなくボランティアでも良い(青柳さん)

  • 信用が壊れるほど貸さないようにコントロールする(青柳さん)

  • お金でしか返せないから不幸になるのではないか。モノに価値がついていく時代だからこそ、お金以外の手段で返せるようにしていく(光本さん)

  • (光本さんの話を受けて)雇用を生むサービスも同時に提供する(青柳さん)

さいごに

以上のように、示唆に富む話がたくさんありました。個人的には、光本さんの既存の金融サービスへの「冷たさ」という課題意識に基づく、性善説ベースの考え方が一番惹かれました。 またこれをテーマに記事を書きたいと思います。